外部情報の構造再構成に基づく批判的意味構成リテラシーの育成支援 ―心理的安全性を損ないにくい構成操作差分の外在化―
外部情報の構造再構成に基づく批判的意味構成リテラシーの育成支援
―心理的安全性を損ないにくい構成操作差分の外在化―
1. 研究目的,研究方法など
(概要)
生成AI時代には,学習者が外部から提示される説明,意見,要約,設計案等をそのまま受容するのではなく,その根拠,不足,偏り,解釈の方向づけを吟味し,自分たちの理解として再構成する力が求められる。本研究では,この力を「批判的意味構成リテラシー」と捉え,その育成・高度化を支援するための学習支援システム研究を行う。
外部情報を批判的に吟味する必要性は,情報リテラシー,AIリテラシー,メディアリテラシーの観点から広く認識されている。しかし,実際の学習場面において,学習者が外部情報の不足,偏り,評価の含み,解釈の方向づけを安全かつ操作的に吟味する課題は,十分に確立されていない。特に,外部情報への違和感や批判は,人や情報源そのものへの否定として受け止められやすく,協調学習における心理的安全性を損なう可能性がある。このため,批判的リテラシーの必要性は高く認識されているにもかかわらず,それを学習者が実際に取り組める課題として構造化する方法は未開拓である。
そこで本研究では,心理的安全性を批判的意味構成リテラシー育成における設計上の制約として位置づけ,批判の対象を人や情報源そのものから,外部情報がどの命題を選択し,何を強調し,どのような評価を付与しているかというフレーミング操作へ移すことを試みる。具体的には,外部情報を,命題,命題間関係,強調,評価付与からなる情報構造としてモデル化し,学習者がその構造を再構成・比較・修正できる構造再構成課題を設計する。これにより,批判や違和感を属人的対立としてではなく,構成操作差分として外在化し,心理的安全性を損ないにくい形で批判的意味構成を行えるようにする。
本研究の萌芽性は,批判的意味構成リテラシーを,学習者個人の読解力や情報評価能力としてのみ扱うのではなく,外部情報の構成操作を再構成・比較・修正する課題構造として操作可能化する点にある。すなわち,本研究は,「批判的に読むべきである」という理念を,命題選択,強調,評価付与の再構成という具体的な学習課題へ変換する試みである。この試みが成立すれば,生成AI出力,教材文,ニュース記事,意見文,複数資料読解など,外部情報を扱う多様な学習場面において,批判的意味構成リテラシーを育成するための標準的な課題設計原理となり得る。
なお,申請者らの再構成型学習支援研究は,海外研究者にも利用・展開されてきた。本研究では,この研究交流基盤を活用し,必要に応じてタイおよびインドネシアの研究者から課題形式や教材の適用可能性に関する助言を得る。ただし,本研究の主目的は国際比較そのものではなく,外部情報の構造再構成による批判的意味構成支援の成立可能性を明らかにすることである。
(1)本研究の学術的背景と核心をなす問い
生成AIは,説明文,解答案,要約,議論,設計案などを大量かつ流暢に生成し,学習者が外部から提示される情報を参照しながら学ぶ機会を増大させている。この状況では,提示情報を正誤判定の対象としてのみ扱うのではなく,その根拠,構造,不足,偏り,解釈の方向づけを吟味し,自分たちの理解として再構成する力が求められる。生成AIの教育利用についても,人間中心の利用,適切な規制,学習者の能力形成が重要であることが指摘されている(Miao & Holmes, 2023)。
本研究では,この力を「批判的意味構成リテラシー」と呼ぶ。これは,他者意見,教材文,メディア情報,生成AI出力などの外部情報を,どの命題が選択され,何が強調され,どのような評価が付与されているかという観点から吟味し,自分たちの理解として再構成する力である。ここでいう「批判的」とは,外部情報を否定的に扱うことではなく,根拠を確認し,不足や偏りを検出し,別解釈の可能性を検討することを意味する。この位置づけは,情報リテラシー,メタリテラシー,AIリテラシーの議論と接続する(Association of College and Research Libraries, 2016; Mackey & Jacobson, 2011; Long & Magerko, 2020)。
しかし,外部情報を批判的に吟味する必要性が広く指摘されている一方で,それを学習者が実際に取り組める操作的な課題として成立させる方法は十分に確立されていない。多くの場合,学習者には「根拠を確認する」「偏りを見抜く」「批判的に読む」といった目標が提示されるが,何をどの単位で取り出し,どのように比較し,どのように修正すれば批判的に意味を構成したことになるのかは明確でない。そのため,批判的リテラシーは重要性が認識されながらも,学習支援システム上で操作・記録・比較・フィードバック可能な活動としては十分に具体化されていない。
さらに,外部情報を批判・検証する場面では,学習者の違和感や異論が,発言者個人,学習者個人,あるいは情報源そのものへの評価として受け止められやすい。心理的安全性は,チームの成員が対人的リスクを取っても安全であると感じられる共有信念として定義され(Edmondson, 1999),分からないことを尋ねる,誤りを認める,異論を述べる,助けを求めるといった学習行動を可能にする条件である。本研究は,心理的安全性そのものを測定・向上させる心理学的研究ではなく,心理的安全性を損ないにくい批判的・協調的学習を成立させるために,学習対象をどのように外在化・構造化すべきかを問う学習支援システム研究である。
本研究の核心をなす学術的問いは,外部情報への批判的検討を,属人的な対立ではなく,構造化された構成操作の差分として扱う学習課題は設計可能か,という点にある。ここでいう属人的対立とは,意見や解釈の違いが,個人の能力,態度,立場,価値観への評価として処理されることにより生じる対立である。これに対し,本研究は,批判や違和感の対象を,人や情報源そのものから,外部情報を構成している操作の差分へ移すことを試みる。
既存の情報リテラシー研究やAIリテラシー研究は,外部情報を批判的に評価する能力の重要性を示してきた。一方で,批判的検討を協調学習場面で実施する際に,批判が人や情報源への否定として受け止められやすいという問題を,学習課題の構造としてどのように扱うかは十分に検討されていない。本研究は,この未解決点に対して,外部情報の意味構成を構造再構成課題として外在化するという方法を提案する。
(2)本研究の目的および学術的独自性・創造性
本研究の目的は,外部情報を命題選択,強調,評価付与からなる構造として再構成させる課題を設計し,批判的意味構成リテラシーを心理的安全性を損ないにくい形で支援する学習支援の成立可能性を明らかにすることである。
本研究でいう構成操作差分とは,外部情報において,どの命題が選択され,何が強調され,どのような評価が付与されているかの違いである。批判の対象を「誰が言ったか」「その人の立場は何か」「その情報源は信用できるか」だけに向けるのではなく,「どの命題を選んだか」「何を重要なものとして扱ったか」「どのような価値づけを加えたか」という操作可能な対象へ向ける点に,本研究の基本的な着想がある。
このために,本研究では,外部情報を構造として再構成させる課題化に着目する。構造再構成課題とは,外部情報を命題,関係,強調,評価付与の単位に分解し,学習者がそれらを再配置・比較・修正する課題である。重要なのは,特定のシステムや形式そのものではなく,外部情報をそのまま評価させるのではなく,その背後にある意味構成を構造として組み直させる点にある。構造再構成課題では,学習者間の違いは,個人の能力や態度の違いとしてではなく,どの命題を選択し,どのように関係づけ,何を強調し,どのような評価を付与したかという構造上の差分として外在化される。
本研究の独自性は,批判的リテラシーを,個人の読解力や情報評価能力としてのみ扱うのではなく,外部情報の意味構成を共同で再構成する課題設計として扱う点にある。とりわけ,従来は「批判的に読む」「根拠を確認する」「偏りを見抜く」といった目標として示されることが多かった学習活動を,命題選択,強調,評価付与という操作単位に分解し,学習者が再構成・比較・修正できる対象として外在化する点に,本研究の創造性がある。
また,心理的安全性を最終成果として直接的に向上させるのではなく,対立が属人的な摩擦として処理されにくく,外在化された操作差分として扱われやすい活動環境を設計する点に萌芽性がある。これにより,従来は必要性が指摘されながらも,具体的な学習課題として成立させにくかった批判的意味構成リテラシーの育成を,学習支援システム上で操作可能な活動として実現する可能性を開く。
(5)期待される成果と波及効果
本研究により,生成AI時代に求められる批判的意味構成リテラシーを,単なる情報評価能力ではなく,外部情報の意味構成を構造として再構成する学習活動として捉える理論的枠組みが得られる。また,批判を人や情報源への否定ではなく,命題選択,強調,評価付与の検証として行う課題設計の原理を提示できる。
本研究の第一の成果は,批判的意味構成リテラシーを操作可能な学習課題として成立させる設計原理である。外部情報を命題,関係,強調,評価付与からなる構造として表現し,学習者がその構造を再構成し,複数の構成結果との差分を比較する方法を整理することで,これまで理念的に語られがちであった批判的リテラシーを,学習支援システム上で記録・比較・フィードバック可能な活動として具体化できる。
第二の成果は,心理的安全性を損ないにくい批判的対話を支える課題設計原理である。批判や違和感を,個人や情報源への否定ではなく,命題選択,強調,評価付与という構成操作差分として外在化することにより,学習者が疑問提示,誤り表明,根拠説明,他者案への建設的関与,構造修正を行いやすい協調的学習環境の設計に貢献する。
第三の成果は,学習支援システム研究における新しい情報表現・診断・フィードバックの可能性である。外部情報を命題,強調,評価ラベルからなる構造として表現し,学習者の再構成結果との差分を可視化する方法は,生成AI出力だけでなく,教材文,ニュース記事,論説文,複数資料読解,探究学習,レポート作成支援など,外部情報を扱う多様な学習場面へ展開可能である。
本研究が成立すれば,外部情報を批判的に扱う学習場面において,学習者に単に「批判的に読ませる」のではなく,外部情報の構成操作を再構成・比較・修正させるという標準的な課題設計方法を提示できる可能性がある。この方法は,生成AI時代の情報リテラシー教育,メディア情報リテラシー教育,複数資料読解,探究学習,協調的議論支援に波及し,批判的意味構成リテラシーを育成するための汎用的な学習支援原理として発展し得る。
さらに,海外研究者との研究交流を通して,課題設計原理の言語的・文化的な適用可能性について初期的な知見を得ることで,将来的な国際展開に向けた基盤を整える。ただし,本研究の中心的な波及効果は,国際比較そのものではなく,批判的意味構成リテラシーを構造再構成課題として操作可能化する方法を,多様な外部情報利用場面へ展開できる点にある。
(6)研究計画
研究初年度は,外部情報を命題選択,強調,評価付与に分解する課題形式を設計し,日本国内で少人数の学習者を対象に予備的実施を行う。あわせて,外部情報を命題,関係,強調,評価ラベルとして表現する構造表現モデルを整理し,再構成結果および差分記述を収集・分析するための記録形式を整備する。
第二年度は,生成AI出力,教材文,他者の意見文など複数の外部情報を対象として,国内で構造再構成課題を実施し,再構成結果,差分記述,対話記録,事後記述を収集する。必要に応じて,タイおよびインドネシアの共同研究者から,課題形式や教材の理解可能性,言語的・文化的調整の必要性について助言を得る。可能であれば,各国での小規模な試行を通して,課題設計原理の適用可能性を補助的に確認する。
第三年度は,得られた再構成結果,差分記述,対話,事後記述を分析し,批判や違和感が構成操作差分として扱われる条件を整理する。これにより,批判的意味構成リテラシーを支援する構造再構成課題の設計原理を明確化する。また,海外共同研究者から得た助言や小規模確認の結果を踏まえ,将来的な国際展開に向けて,言語・文化・教育文脈に応じて調整すべき条件を整理する。
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