フレーミング・リテラシー
1.はじめに
デジタルメディアを通じて多様な情報が流通する現在、受け手には、情報の真偽を確認するだけでなく、メディア上の言説がどのように構成されているかを批判的に読み解くことが求められている。メディア・情報リテラシーは、情報へのアクセス、分析、評価に加えて、メディアメッセージを自ら構成・発信する能力を含むものとして捉えられている(UNESCO, 2021; NAMLE, 2024)。したがって、その育成においては、完成した言説を受容して評価するだけでなく、言説が作られる過程を理解し、自ら操作できるようにすることが重要となる。
このような言説構成を説明する代表的な概念の一つがフレーミングである。Entman(1993)は、フレーミングを、認識された現実の一部を選択して顕著にすることにより、特定の問題定義、因果的解釈、道徳的評価、あるいは解決策を促す働きとして整理している。この観点からみれば、メディア上の立場の違いは、必ずしも異なる事実の提示や虚偽情報の使用によってのみ生じるものではない。同じ出来事に関する事実群を参照していても、どの事実を取り上げるか、何を強調するか、どのような評価や因果的解釈を加えるかによって、肯定的、否定的、あるいは中立的な言説が構成され得る。
こうしたフレーミングを読み解く能力は、メディア・リテラシーの重要な構成要素と考えられる。すなわち、ある言説において、何が選択または省略され、何が強調され、どのような評価的・因果的解釈が付加されているかを読み解くこと、および、同じ事実群から異なる立場の言説を構成できることが求められる。本研究では、この能力をフレーミング・リテラシーと呼ぶ。ただし、本研究の目的は、フレーミング・リテラシーという新たなリテラシー概念を提唱することではない。既存のフレーミング研究およびメディア・リテラシー研究に基づき、その育成を可能にする具体的な学習方法を提案することを目的とする。
フレーミングについての知識を説明するだけでは、その分析能力が十分に形成されるとは限らない。List and Du(2024)は、フレームの定義を提示するだけでは大学生のフレーム分析成績は改善しなかった一方、文章中の特徴的な語句に注目させる操作は、明示的なフレームの分析を促進したと報告している。この結果は、フレーミングを概念として理解させるだけでなく、言説を構成する要素を特定し、それらに対する具体的な操作を経験させる必要性を示唆している。しかし、自然言語で表された言説から、命題の選択、強調、評価の付加といった構成過程を直接把握することは容易ではない。これらの操作は通常、完成した文章の背後に隠れており、学習者間で分析対象や判断基準を共有することも難しい。
この問題に対して、対象となる情報構造と認知的操作を外的表現として可視化することが有効と考えられる。外的表現は、内的な理解を表出するだけでなく、学習者が対象を吟味し、操作し、修正するための認知的道具として機能する。また、表現形式が学習者の注意や活動を方向づける「表象的ガイダンス」をもつことが指摘されている(Ainsworth, 2006; Suthers, 2003)。さらに、共有された外的表現は、協調学習において、参加者が互いの解釈を参照し、相違を特定し、意味を共同で形成するための共有対象となり得る(Suthers, 2006)。
そこで本研究では、フレーミングを、命題ネットワークに対する一連の外在的操作として扱う。構成的操作では、まず出来事に関する事実命題とその関係を表す参照命題ネットワークを精査し、その一部を選択する。次に、選択した命題に強調を付与するとともに、評価的・因果的命題を追加し、最終的に言説として言語化する。解釈的操作では、この過程を逆向きにたどり、提示された言説を命題ネットワーク化したうえで、事実命題、評価命題および因果的解釈を識別し、強調された部分と参照命題ネットワークから欠落した部分を確認する。これにより、フレーミングを漠然とした「印象」や「偏り」としてではなく、命題の選択、強調および評価の付加という操作として分析可能にする。
ただし、これらを完全な自由構成として行わせた場合、学習者ごとに使用する命題や表現単位が異なるため、同一の課題に取り組んでいることを保証しにくい。また、学習者間の結果を直接比較することや、どの操作に相違が生じたかを診断することも困難となる。そこで本研究では、参照命題ネットワークを構成する事実命題と関係、および強調や評価を表す操作要素を部品として提供し、学習者がそれらを選択・組合せることによって言説の構成過程を再構成する方法を採用する。
ここでいう再構成は、あらかじめ定められた一つの文章を再現することを目的とするものではない。共通の部品集合を用いることで、学習者が取り扱う対象と可能な操作を共有したうえで、異なる立場のフレームを構成・解釈する活動である。共通部品の提供によって、学習者間で課題範囲と操作単位を共有できるため、個々の構成結果の差異を、選択された命題、強調された命題、付加された評価命題などの単位で比較できる。これにより、学習者同士が互いのフレームを比較してその根拠を説明する協調活動や、参照構造との差分に基づくフィードバックが可能となる。
また、共通の部品と操作規則に基づいて学習結果を外在化することは、形成的評価に必要となる学習過程の証拠を取得することにもつながる。形成的評価では、学習者の現在の理解を把握し、その情報を次の学習活動の改善に用いることが重視される(Black & Wiliam, 1998)。再構成型概念マップでは、教授者が用意した構造を部品化し、学習者が同じ部品を再構成することによって、両者の差分を自動的に診断する枠組みが提案されてきた(Hirashima et al., 2015)。さらに、共通部品による再構成は、学習者間の理解の相違の明示化、協調活動および形成的評価に利用できることが報告されている(Wunnasri et al., 2018; Pailai et al., 2017)。
以上を踏まえ、本研究では、フレーミング・リテラシーを育成するために、言説の構成過程を命題ネットワーク上の操作として外在化し、提供された部品を用いて再構成させる学習方法を提案する。本方法の特徴は、第一に、命題の選択、強調および評価の付加を操作可能な対象として明示すること、第二に、共通部品によって学習者間に共通の課題と比較可能な表現単位を成立させること、第三に、その差分を協調的検討、フィードバックおよび形成的評価に利用できることにある。本研究では、この学習方法を実現する学習支援環境を設計・開発し、構成的操作の経験がフレーミングの解釈、および異なる立場の言説構成に及ぼす効果を検証する。
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