第3章20260312
3. 存在量・関係量三量構造モデル
前章では,算数文章題研究において,加減構造と乗除構造がそれぞれ独立した研究系譜として発展してきたことを示した。本章では,これらの問題構造を統一的に記述する枠組みとして,存在量・関係量三量構造モデルを提案する。
3.1 存在量と関係量
算数文章題に現れる量は,その役割に応じて大きく二種類に分類することができる。
第一に,対象や状態に対応して記述される量である。例えば,
-
りんごの個数
-
箱の個数
-
赤い箱のりんごの個数
-
青い箱のりんごの個数
などは,問題文において対象の状態を表す量である。本研究ではこれらを**存在量(existential quantity)**と呼ぶ。
第二に,二つの存在量の関係として定義される量である。例えば,
-
合併(合計)
-
差
-
比率
-
1箱あたりの個数
などは,二つの存在量の関係によって定義される量である。本研究ではこれらを**関係量(relational quantity)**と呼ぶ。
この区別により,算数文章題に現れる数量関係を,
-
存在量
-
関係量
という二種類の量によって記述することが可能になる。
3.2 三量構造
存在量と関係量の区別を導入すると,算数文章題の基本的な数量構造は
二つの存在量と一つの関係量
から構成されると考えることができる。
例えば,加減問題では
-
赤い箱のりんごの個数
-
青い箱のりんごの個数
という二つの存在量から,
-
合併(合計)
という関係量が定義される。
また,乗除問題では
-
箱の個数
-
りんごの個数
という二つの存在量から,
-
1箱あたりの個数
という関係量が定義される。
このように,算数文章題の数量関係は一般に
という三つの量の組として表すことができる。ここで,
-
:存在量
-
:関係量
である。本研究ではこの構造を**三量構造(three-quantity structure)**と呼ぶ。
この三量構造は図式的には図4のような三角構造として表される。
図4 三量構造
R
/ \
E1 E2
この図式は,関係量 が二つの存在量 と の関係として定義されることを表している。
3.3 対応関係量と変化関係量
関係量は,存在量との関係の仕方によって二種類に分類することができる。
第一に,二つの存在量が同時に成立する状態において定義される関係量である。本研究ではこれを**対応関係量(correspondence relation quantity)**と呼ぶ。対応関係量の例としては,
-
合併
-
差
-
比率
-
逆比
などが挙げられる。
第二に,二つの存在量が時間的に異なる状態として現れる場合に定義される関係量である。本研究ではこれを**変化関係量(change relation quantity)**と呼ぶ。変化関係量は,変化前と変化後の量の差として定義される。
例えば,
-
5個あったりんごが
-
2個減って
-
3個になった
という問題では,
-
変化前のりんごの個数
-
変化後のりんごの個数
という二つの存在量の関係として,
-
変化量
が定義される。
ここで重要なのは,増加や減少は独立した関係量ではなく,変化量の符号による解釈として理解できるという点である。
3.4 二重三角構造と単三角構造
対応関係量では,同じ二つの存在量から複数の関係量が定義される場合がある。
例えば,
-
合併
-
差
は同じ存在量対から定義される関係量である。また,
-
比率
-
逆比
も同様に同じ存在量対から定義される。
このような場合,数量構造は図5のような二重三角構造として表すことができる。
図5 二重三角構造
R1
/ \
E1 E2
\ /
R2
例えば,
差と合併は
合併
/ \
A B
\ /
差
として表される。また,比率と逆比は
A/B
/ \
A B
\ /
B/A
として表される。
一方,変化関係量では,二つの存在量は時間的に異なる状態を表すため,同時に成立する二つの関係量を定義することができない。そのため,変化関係量の構造は図6のような単三角構造として表される。
図6 単三角構造
変化量
/ \
変化前 変化後
このように,本研究では
-
対応関係量 → 二重三角構造
-
変化関係量 → 単三角構造
という区別によって,算数文章題の数量構造を体系的に整理する。
3.5 CONTEXT と概念的読み替え
本研究で提案する三量構造モデルは,算数文章題に含まれる数量関係の構造を記述することを目的とする。そのため,本モデルでは数量関係そのものに関わらない要素は**外部条件(CONTEXT)**として扱う。
文章題では,異なる対象に対応する量が同一の演算に含まれる場合がある。例えば,
-
りんごの個数
-
みかんの個数
を加える問題では,両者は異なる対象に対応する量である。しかし実際には,
果物の個数
という上位概念への読み替えによって,これらの量は同一の種類の量として扱われる。
このような操作は,数量構造そのものではなく,対象概念の階層関係に関わるものである。すなわち,
りんご
みかん
↓
果物
という概念的抽象化によって演算が可能になっている。
本研究では,このような概念的条件は数量構造の内部では扱わず,数量構造を成立させる外部条件としてCONTEXTに含める。したがって,本研究で提案するモデルは算数文章題の完全なドメインオントロジーではなく,その中核となる数量構造オントロジーを与えるものである。この限定により,多様な文章題に共通する数量関係の構造を抽出し,統一的に記述することが可能となる。
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