構造表現から意味再構成へ:Kit-Build概念マップの理論枠組み
概念マップは,学習者の知識構造を外化し,有意味学習を支援する手段として広く用いられてきた(Novak & Gowin, 1984)。概念マップでは,概念とリンク語からなる命題(concept–link–concept)によって知識が表現され,概念間の関係がグラフ構造として可視化される。このような特性から,概念マップは学習者の概念理解を診断するための評価手法としても利用されてきた。
しかしながら,概念マップ研究では早くから次の問題が指摘されている。すなわち,概念マップのグラフ構造は必ずしも学習者の知識理解を直接表すわけではないという問題である(Ruiz-Primo & Shavelson, 1996; Nesbit & Adesope, 2006)。リンク数,階層構造,cross-link などの構造的特徴はグラフとしての性質を表しているにすぎず,学習者が意図する意味関係を必ずしも正確に表すとは限らない。
この不一致は,概念マップが柔軟な表現体系であることに起因する。同じ理解内容が異なる構造として表現される場合があり,逆に構造が似ていても意味内容が異なる場合もある。また,概念マップの作成には図式化能力や表現スキルが影響するため,マップの構造差分は必ずしも知識理解の差分を直接反映しない。つまり,概念マップ間の差異はしばしば知識の差ではなく表現の差を表している可能性がある。
この問題に対する一つの有効な方向は,概念マップの表現空間を制約することである。使用可能な概念や関係を限定すれば,表現のばらつきを抑えることができ,構造差分を理解差分として解釈しやすくなる。
この考え方に基づく方法が Kit-Build Concept Map である(Hirashima et al., 2015; Yamasaki et al., 2017)。Kit-Build 概念マップでは,教師の参照マップを構成する概念やリンクが部品として分解され,学習者にはそれらの kit が与えられる。学習者はこれらの部品を再構成することで概念マップを構築する。
このように表現要素が共有されることで,可能なマップの表現空間は大きく制約される。その結果,学習者マップと参照マップの構造差分は,より直接的に理解差分として解釈できるようになる。欠落リンク,誤接続,誤配置などは,学習者の知識構造における理解の問題として診断可能となる。
さらに重要なのは,この構造診断が**意味再構成(meaning reconstruction)**を促すことである。学習者が自分のマップと参照マップとの差分を確認すると,どの概念がどのように結びつくべきかを再考する必要が生じる。この過程を通して,学習者は単に図の構造を修正するのではなく,概念間の意味関係そのものを再構成する。
この観点から,Kit-Build 概念マップは次の三段階からなる学習枠組みとして理解できる。
知識表現(Knowledge Representation)
学習者は与えられた部品を用いて概念マップを再構成し,自身の理解を外化する。
構造診断(Structural Diagnosis)
学習者マップと参照マップの差分が自動的に検出される。
意味再構成(Meaning Reconstruction)
学習者は差分を手がかりに概念関係を再考し,理解を再構成する。
この枠組みにおいて,構造比較は評価の最終目的ではなく,意味再構成を媒介するメカニズムとして機能する。表現空間を制約し構造診断を可能にすることで,Kit-Build 概念マップはグラフ構造と意味理解の間のギャップを縮小し,構造差分を概念理解の再構成へと結びつける学習環境を提供する。
References
Novak, J. D., & Gowin, D. B. (1984).
Learning how to learn. Cambridge University Press.
Ruiz-Primo, M. A., & Shavelson, R. J. (1996).
Problems and issues in the use of concept maps in science assessment.
Journal of Research in Science Teaching, 33(6), 569–600.
Nesbit, J. C., & Adesope, O. O. (2006).
Learning with concept and knowledge maps: A meta-analysis.
Review of Educational Research, 76(3), 413–448.
Hirashima, T., Yamasaki, K., Fukuda, H., & Funaoi, H. (2015).
Framework of Kit-Build concept map for automatic diagnosis and its preliminary use.
Research and Practice in Technology Enhanced Learning, 10.
Hirashima, T., Yamasaki, K., Fukuda, H., & Funaoi, H. (2011).
Kit-Build Concept Map for Automatic Diagnosis.
In Proceedings of the 15th International Conference on Artificial Intelligence in Education (AIED), 466–468.
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