読解の分類
読解
テキスト読解
構造読解
直接的構造読解
構成的構造読解
再構成的構造読解
他者構造再構成的読解
自己構造再構成的読解
本研究では,読解を,学習対象の提示形式およびその構造への操作の有無に基づいて分類する。まず,文章として提示された情報を対象とするテキスト読解と,概念マップなどの関係構造として提示された情報を対象とする構造読解とを区別する。さらに構造読解を,構造への介入の程度に応じて,直接的構造読解,構成的構造読解,再構成的構造読解に区分し,再構成的構造読解をその対象の違いに基づいて,他者構造再構成的構造読解と自己構造再構成的構造読解に区分する。
構成と再構成はいずれも,意味の生成と検討を含む過程であるが,その認知的機能には重要な違いがある。構成は,学習者の内的理解を概念や関係として外的表象へと表出する過程であり,主として内的表現の外化として進行する。この過程にも局所的な吟味や修正は含まれるものの,外化された構造を改めて内的理解と照合し直すことは課題遂行上必須ではない。
これに対して再構成は,いったん外化された意味構造を対象とし,それを再配置・再接続といった外的操作によって再構成するとともに,その構造を内的理解と対応づけ(同定)し,両者を照合する過程を伴う。このように,再構成は外的操作と内的照合が往復する過程であり,照合過程において外的表現と内的理解との不一致が顕在化するため,意味の妥当性の検討および修正が不可避となる。すなわち,再構成は外化を含む生成的過程であると同時に,外化された意味を対象化し,その妥当性を検証しながら再生成する過程であり,検証的処理を必然化する点に特徴がある。
1. テキスト読解
テキスト読解とは,文章として提示された情報を逐次的に解釈し,文脈に基づいて意味を構成する読解活動である。学習者は,文や段落の連なりを追いながら,記述内容の理解,推論,関係づけを行う。
2. 構造読解
構造読解とは,概念マップなどの外的表象において明示された概念および概念間関係を対象とし,その関係構造を解釈する読解活動である。学習者は,個々の概念の意味だけでなく,概念相互のつながり,全体構造,整合性を把握しながら理解を形成する。
3. 直接的構造読解
直接的構造読解とは,提示された概念マップを完成した外的表象として受け取り,その構造を変更することなく,そこに表現された概念および概念間関係をそのまま解釈する構造読解である。学習者は,既に与えられた構造を参照しながら理解を行うが,構造の生成や修正は課題遂行上必須ではない。
4. 構成的構造読解
構成的構造読解とは,教材内容をもとに,学習者自身が概念および概念間関係を構成し,概念マップを作成することを通して行う構造読解である。学習者は,テキストや資料に含まれる情報を選択・整理し,関係づけながら外的表象として構成するため,意味の生成が課題遂行上不可避となる。
5. 再構成的構造読解
再構成的構造読解とは,いったん外的表象として与えられた概念マップを操作可能な構造として扱い,その概念や関係を再配置・再接続しながら意味を解釈する構造読解である。この過程では,概念間関係の妥当性や整合性,不足や不整合の検討が伴い,構造の評価と再解釈が課題遂行上不可避となる。
6. 他者構造再構成的読解
他者構造再構成的読解とは,他者が作成した概念マップなどの構造を対象とし,その構造を再配置・再構成しながら意味を解釈する再構成的構造読解である。学習者は,他者によって外化された意味構造を吟味し,その妥当性や整合性を検討しながら再編成するため,既存構造に対する批判的理解が促される。
7. 自己構造再構成的読解
自己構造再構成的読解とは,学習者自身が先に作成した概念マップなどの構造を対象とし,その構造を再配置・再構成しながら意味を解釈する再構成的構造読解である。学習者は,自ら外化した意味構造を再び対象化し,その妥当性や整合性,不足や不整合を検討しながら再解釈・修正するため,自己の意味構成を検証・診断する過程が生じる。
関係をまとめた短い説明
以上の分類において,テキスト読解は文章を対象とする読解であり,構造読解は概念間関係として表現された構造を対象とする読解である。構造読解のうち,直接的構造読解は与えられた構造の解釈を中心とし,構成的構造読解は構造の生成を通した理解を伴い,再構成的構造読解は既存構造の評価と再編成を通した理解を伴う。さらに,再構成的構造読解は,対象が他者の構造である場合には他者理解の批判的吟味として,自己の構造である場合には自己理解の検証・診断として位置づけられる。
■ 関連研究
2.1 学習活動における認知的関与
学習活動における認知的関与の深さは,学習成果に大きく影響することが知られている。とくに,Michelene T. H. Chi と Ruth Wylie によるICAPフレームワーク(Chi & Wylie, 2014)は,学習活動を受動的(Passive),能動的(Active),構成的(Constructive),相互的(Interactive)の4段階に分類し,構成的・相互的活動がより深い理解をもたらすことを示している。この枠組みは,学習者が情報を単に受容するのではなく,再構成や生成を伴う活動を行うことの重要性を理論的に位置づけるものである。
また,Merlin C. Wittrock の生成的学習理論(Wittrock, 1990)においても,学習者が情報を自ら組織化し,既有知識と関連づける過程が理解の形成に不可欠であることが指摘されている。これらの知見は,本研究で扱う構成的構造読解および再構成的構造読解の理論的基盤となる。
2.2 概念マップと知識構造の外化
概念マップは,知識構造を外的表象として表現する手段として広く研究されてきた。Joseph D. Novak と Alberto J. Cañas(2008)は,概念マップが概念間の関係を明示的に表現することで,理解の可視化と学習支援に寄与することを示している。また,John C. Nesbit と Olusola O. Adesope(2006)のメタ分析においても,概念マップの作成や利用が学習成果の向上に有効であることが報告されている。
さらに,外的表象に関する研究では,Roy D. Pea(1994)などにより,外的表象を操作することが認知活動を支援し,理解の深化に寄与することが指摘されている。これらの研究は,概念マップを対象とした構造読解およびその操作の意義を支持するものである。
2.3 批判的理解と評価的処理
学習における理解は,単なる情報の受容にとどまらず,その妥当性や整合性を評価する過程を含むことが重要である。Robert H. Ennis(1985)は,批判的思考を「何を信じ,何を行うべきかを合理的に判断するための思考」と定義し,情報の評価や判断を伴う理解の重要性を指摘している。
この観点から見ると,概念間関係の妥当性や整合性を検討する活動は,批判的理解の中核をなすと考えられる。しかし,従来の学習活動においては,こうした評価的処理が必ずしも課題遂行上不可避であるとは限らず,学習者に委ねられている場合が多い。
2.4 本研究の位置づけ
以上のように,既存研究においては,学習活動の認知的関与の深さ(Chi & Wylie, 2014),概念マップによる知識構造の外化とその学習効果(Novak & Cañas, 2008; Nesbit & Adesope, 2006),および構成活動の生成的側面(Wittrock, 1990)については整理がなされている。これらの知見は,本研究で扱うテキスト読解や構造読解,ならびに構成活動の重要性を理論的に支持するものである。
しかしながら,概念マップを対象とした読解活動を,構造への操作の程度(直接的解釈,構成,再構成)および対象の違い(他者構造,自己構造)に基づいて体系的に分類した枠組みは,これまで明示的には提示されていない。とりわけ,再構成を通した読解を,批判的理解を必然化する活動として位置づけ,さらに他者構造と自己構造の違いに着目して整理した研究は十分に行われていない。
本研究は,これらの点に着目し,概念マップに対する読解活動を体系的に分類するとともに,各読解様式が批判的理解および意味構成過程に与える影響を実証的に検討するものである。
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