1あたり量への言いかえと構造探究

1あたり量への言いかえと構造探究

倍表現や%表現をそのまま用いることは,問題を解くという観点では十分な利点をもつ。これらの表現は,基準量や比較量を文脈に即して把握しやすく,求答に必要な関係の見通しも得やすいからである。とくに,倍や割合・百分率のような表現では,基準量と比較量の区別が表現上比較的明確であり,そのことが求答のしやすさを支えている。

一方で,本研究が目指すのは,個々の問題の解法習得ではなく,異なる文脈に現れる乗法構造の同一性を,比較・再構成を通して探究することである。この観点からは,倍や%,速度などの表現を,必要に応じて1あたり量へと言いかえ,関係量として明示化することにより,背後にある比例構造を共通の乗法構造として捉えやすくなる。また,この言いかえは,それらの表現を三角図および二重三角図へ接続し,外的表象として比較・操作するための基礎ともなる。

なお,%や倍は,同種量どうしの比として数値表現上は無名数として扱われることが多いが,そのことは,基準量と比較量の区別まで失われることを意味しない。たとえば,食塩水5%は「食塩水100gあたり食塩5g」,さらに「食塩水1gあたり食塩0.05g」と読み替えることができる。また,「BさんがAさんのお金の5倍をもっている」という関係も,「Aさんのお金1あたり,Bさんのお金5」と表すことができる。このように,%や倍も,表面的には無名数として表される一方で,構造的には基準量と比較量の役割をもつ関係として捉えることができる。

比例を1あたり量として捉える考え方自体は,数学教育研究において広く共有されている。Vergnaud は,比例場面における異種量どうしの比を function ratio または rate と位置づけ,intensive quantity とも関係づけている。また,我が国の学習指導要領解説においても,第5学年で単位量当たりの大きさ,割合,百分率,簡単な比例関係が関連づけて扱われている。一方で,教材や授業では,倍や%などの表現がそのまま扱われることも多く,1あたり量としての共通構造が常に前面化されているわけではない。したがって,本研究の立場は,既存の考え方を踏まえつつ,それを構造探究の観点から明示的に前景化するものと位置づけられる。さらに,本研究の特徴は,この共通構造を二重三角図という外的表象によって可視化し,単なる理解対象にとどめず,学習者が操作的に探究できる対象として位置づけている点にある。


コメント

このブログの人気の投稿

答えから始まる学習:再構成学習・パズル性(適合的/生産的)・点検の設計

AIリテラシーとしての生成AI活用の二層化:プロンプトリテラシーから意味構成リテラシーへ

生成AIの成果物に「何があって,何がないのか」:四つの機序と意味点検としての自己再構成