生成AIの機序分析に基づく人の役割の再定義 ― 正当化と価値づけとしての意味的機序とオープン情報構造アプローチ ―(20260119)

(電子情報通信学会教育工学研究会:2026-03-ET) 

生成AIの仕組みを分析することは、生成AI時代における人の役割、そして人が教育を通して何を学び、何を身につけるべきかを整理するうえで有効である。生成AIは、学習・研究・業務の多くの場面で「有意味な答え」を提示し、実際に高い実用性を示している。一方で、「生成AIは意味を理解しているのか」「なぜその出力を正しい・妥当だと判断できるのか」といった問いは、ブラックボックス性、プロンプト設計、説明可能性、信頼性といった異なる論点が混在したまま論じられ、教育的含意が曖昧になりやすい。教育の観点から重要なのは、生成AIが何をできるかを列挙することではなく、生成AIの仕組みを踏まえたときに、人がどの部分を担い、その能力をどのように育成すべきかを明確にすることである。


本稿はそのために、生成AIの出力が有意味に見える現象を、計算的機序・機能的機序・意味的機序・根拠提示という複数のレイヤに分けて整理する枠組みを提示する。第一に、計算的機序とは、学習・推論がどのような計算手続きとして実装されているかを指す。この層では枠組みの記述は可能である一方、学習によって獲得された内部表象が「何を意味しているか」までが人間にとって解釈可能になるとは限らない。第二に、機能的機序とは、入出力として観察される法則性、すなわちどのような指示や文脈を与えるとどのような出力傾向が生じるかという操作則であり、プロンプト設計や対話的誘導はこの層の知識に基づく実践である。これら二つの層は、生成AIを有効に「使う」ために重要であるが、出力内容の正しさや妥当性を保証するものではない。


第三に意味的機序とは、生成された出力が、どの根拠と推論によって正しい・妥当だといえるのかを問う正当化の層である。この層では、前提の妥当性、推論規則の適用、反例や境界条件の検討といった規範的判断が中心となるが、現状の生成AIは、これらを一貫して自律的に保証する主体とはなりにくい。第四に根拠提示とは、生成AIがしばしば示す「根拠」をめぐる層であり、そこには参照(出典の提示)、説明(もっともらしい理由づけ)、正当化(規則・証拠・推論に基づく妥当性担保)が混在しやすい。根拠が提示されること自体は有用であるが、それが意味的機序としての正当化を自動的に代替するわけではない。


このレイヤ整理は、生成AIだけでなく、人間の「意味の取り扱い」にも同型に適用できる。人間においても、計算的機序は生理・神経・身体に支えられ、機能的機序は心理学・認知科学が記述する注意・記憶・推論・概念形成などの働きとして捉えられる。しかし、人間の意味的機序は、(a)正当化(規範に照らした妥当性の担保)と(b)価値づけ(目的・価値・文脈に基づく採用判断)という二側面を持つ点に特徴がある。正当化は、論理・数学・科学的方法・議論規範として、個人に依存せず社会的に共有・検証可能な形で成立しており、検証、反論、再検討、合意形成といった制度や手続きを通じて維持されてきた。一方、価値づけは、当該の知識や結論が誰にとって、何のために重要であるのか、どのリスクを許容して採用するのかを定め、理解を行為や意思決定に結び付ける営みであり、主体の意図や価値に根ざして形成される。


生成AIは、形式上は理由づけや意義付与を生成できるため、正当化や価値づけを行っているように見える。しかし実際には、生成AIが行っているのは、提示された文脈に基づく整合的な説明や語りの生成であり、規範に照らした妥当性の最終的な保証や、価値判断に対する責任を引き受ける主体とはなりにくい。これに対して人間は、誤りから自由ではないものの、誤りを検出し訂正する手続きを設計・運用できる点において、意味的機序を自覚的に担う主体でありうる。したがって、生成AI時代においては、人が意味的機序を担う役割は小さくなるのではなく、むしろいっそう重要になると捉えるべきである。


ここで、意味的機序(正当化/価値づけ)を育成・評価可能な形に接続する具体策として、オープン情報構造アプローチ(Open Information Structure Approach: OISA)を位置づける。OISAは、学習者が外的表象(情報構造)を操作・再構成する過程を通して、学習者の内的表象がどのように接地(グラウンディング)され、どの前提や関係づけのもとで理解が成立しているかを、点検可能な手がかりとして捉える枠組みである。ここで接地(グラウンディング)とは、記号(用語・式・文)が指す概念について、例・非例や境界条件を通して意味範囲を定め、状況に応じて適用の可否を判断できる状態を指す。外的表象は、概念間関係を明示し、比較・修正・更新を可能にするため、学習者の理解の根拠(どの前提を置き、どの関係を採用しているか)を可視化する媒体となる。また、外的表象の操作・再構成は、関係の整合性点検、例外の探索、不足の補完、代替構造の比較を要求するため、概念の意味範囲と適用条件の明示化・更新を通じて接地を促すといえる。したがって、生成AIの出力を素材として外的表象化し、その操作・再構成の中で正当化(妥当性の点検)と価値づけ(採用判断の明示)を要求する学習設計は、本稿の提案する教育目標を具体的活動へ落とし込む一つの方法となる。


以上の整理は、生成AI時代の教育に対して次のような示唆を与える。教育の課題は、学習者が生成AIを「上手に使える」ようにすることにとどまらない。むしろ重要なのは、生成AIの出力を素材として、参照・説明・正当化を区別して扱い、妥当性を点検し、目的や価値に照らして価値づけを行う能力を育成することである。すなわち、答えが容易に得られる状況において、その答えを出発点として意味を再構成し、他者に説明可能な形で正当化でき、さらに採用の判断を価値づけとして言語化できる能力こそが、生成AI時代に人が学ぶべき中核的能力である。


本論の目的は、生成AIの機序分析を通して、操作可能性と妥当性保証を峻別し、人が担うべき意味的機序(正当化/価値づけ)を教育目標として明示することである。ここでの「操作可能性と妥当性保証の峻別」とは、生成AIを意図通りに動かせることと、その出力を正しい・妥当だと判断できることとを区別して捉えることを意味する。そして、この枠組みに基づき、生成AIを活用した学習活動を、単なる利便性の向上ではなく、学習者の意味構成能力を育成・評価する教育設計へと接続するための理論的基盤を提示する。

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